リスクと投資

ポートフォリオ理論で「リスク=標準偏差」と定義したことで、投資を科学的に分析することが可能になった反面、リスクという言葉の境界が拡大して直感的な認識とのずれを生み出しているような気がする。
そもそも、保有銘柄数を増やすことでリスクを減らすという発想は、今でこそ常識のように語られるが、もともとはポートフォリオ理論が発見した結論であって、自明の命題ではなかった。それが今では、ポートフォリオ理論の前提に乗っていなくても、銘柄数を増やせばリスクを減らすことができると誤解する人まで出てきているようだ。
また、ハイリスク・ハイリターンという発想も、ポートフォリオ理論の結論だ。確かに「虎穴に入らずんば、虎子を得ず」ということわざとの連想で、ハイリスク・ハイリターンをそのようなイメージとして理解する人も少なくないと思うが、これはポートフォリオ理論に沿って言えば誤解に近いのではないかと思う。ポートフォリオ理論の発想で言えば、ハイリスク・ハイリターンとは、無リスク資産と市場インデックスファンドの組み合わせで、任意のリターンに対し、最小のリスク(つまり分散)を持つポートフォリオを作成することができ、リターンが大きくなるとそれだけ最小のリスク(分散)が大きくなることが示されるということだ。
ところで、そもそも、一般的には「リスク≠標準偏差である。だから、リスクを最小化するために、保有銘柄数を少なくするという発想も当然意味がある。なぜなら、人間の持つ情報収集管理能力の最適な幅というものがある(かもしれない)からだ。また、ポートフォリオ理論では市場リスクは不可避であるが、ヘッジファンドの理論を採用すれば、市場リスクを回避できる。しかし、当然、ヘッジファンド理論に従ったファンドは、ポートフォリオ理論の要請よりもはるかに少ない銘柄数になる。