SonyとApple

私が学生の頃は、Sonyは日本を代表する企業で、就職活動ではあこがれの企業というのが一般的な認識だったのだけれど、今や面影もないというか・・・。学生の頃、ソニー株に手を出して、痛い目を見たことを覚えています。思えばあれが凋落の始まりでした。
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Sony凋落と時を同じくして、Appleは急成長しました。Sonyが持っていた大衆的なイメージと、Appleの戦略が重なったためか、「iPodSonyが作るべきだったはずの商品だ」的な議論をよく見かけたような気がします。
でも、実際、SonyAppleってどのくらい似ている企業なの?

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Appleは、前にも一度書いたように「一般消費者のエンターテインメントに関する情報の流通から消費までをワンストップで提供する」企業だと考えてよいと思う。それに対して、Sonyは?
年次報告から基礎データを拾って比較してみようと思う。Sonyは2006年度の有価証券報告書Appleは2007年のSEC Filingの10-Kを元にします。

売上高 流動資産 総資産 従業員数
Sony(百万円) 8,295,695 4,546,723 11,716,362 163,000人
Apple(百万ドル) 24,006 21,956 25,347 22,700人
比率(Sony/Apple, $1=\100) 3.46 2.07 4.62 7.18

総資産と従業員数の比率が高めに出ています。「総資産 ー 流動資産 (=固定資産など)」の数字も計算してみるとよりはっきりすると思いますが、これは「生産設備を自社で持っているか」の差です。Sonyは生産設備を自前で持っている企業なのに対し、Appleはいわゆる「ファブレス企業」ということです。ファブレス企業として有名な日本企業としては、これまたSonyと因縁の深い任天堂があったりします。
この生産設備を持っているという特徴が、Sonyという企業に大きな影響を与えていることは、次の表から読み取れます。

事業分類 従業員数(人) 売上高(億円) 営業利益(億円) 設備投資(百万円)
エレクトロニクス 136,900 60,505 1,567 351,482
ゲーム 5,100 10,168 -2,323 16,770
映画 7,300 9,663 427 10,970
金融 6,600 6,493 841 6,836
(合計) 163,000 82,957 718 414,138

生産設備はエレクトロニクスに集中しているわけですが、エレクトロニクスとその他の分野とのバランスが全くつりあっていません。その上、事業分類を横断して1つのコンセプトにまとめようとしても、どうまとめればいいのか全く見当がつきません。セグメント間売上も -7,648億円で、比率としては非常に小さいです。Appleの場合はユーザーに見せるシナリオがありましたし、MicrosoftGoogleは技術やメディアに共通点がありましたが、Sonyの場合どうやっても思いつきません。誰かいいアイデアはありませんか?
こういう事業構造になっていると、勢い、事業分類間での軋轢がおきますし、結局、ヒト・モノ・カネに勝るエレクトロニクスが主導権を持っていくことになります。
エレクトロニクスの内訳をみると、次のようになっています。

売上高(億円)
オーディオ 5,229
ビデオ 11,431
テレビ 12,270
情報・通信 9,505

テレビ・ビデオが主軸になっていることが分かります。PCは情報・通信の中の一部を占めているに過ぎません。Appleの主力製品がPCとiPod(オーディオ)であることを考えると、製品のラインナップがあまりにも違います。

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以上から分かることは、Sonyというのは、一般のイメージとはことなり、テレビ・ビデオを中心としたエレクトロニクス機器のメーカーであるという側面が強いということです。
この特徴はエレクトロニクス以外の分野の経営上の意思決定にも影響を与えているような気がします。例えば、PS3がああいうことになったのも、ゲーム機がエレクトロニクス機器として進化することに対する疑問が生まれにくい土壌があったのではないかと想像するのです。Blu-rayにしても勝ったからよかったけれど、負けた場合ソニー・ピクチャーズはどういう判断を下したんだろう?