市場経済と貧困の問題

市場経済化を進めると、貧富の差が拡大して1%の勝者と99%の敗者に分かれてしまうという主張を平気でする人がいる。そういう主張を聞くに付け、感覚的な議論ではなく、ちゃんと経済学を理解して話をしてほしいと思う。


厚生経済学という経済学の一分野がある。経済学のツールを使って、人々の幸福や福祉などを分析する学問だ。この経済学のパレート最適、パレート効率性、パレート改善といった一連の考え方がある。自由な市場では、このパレート最適な状態が実現して、社会全体の幸福の総和が最大化するという結論が導かれている。
簡単に説明すると、富裕層はお金をたくさん持っているので、その一部を失ってもそれほど幸福感は減らない。それに対し、貧困層の人は、わずかなお金を得ただけでも、幸福感は大きく増大する。そのように幸福感の感じ方には人によって差があるので、貧困層の労働に対して富裕層が対価を払うことで、幸福感は全体として総和が増大する。自由な市場であれば、このような経済取引が自由に行われるので、幸福感がこれ以上増加できなくなるところまで経済取引が行われて、最終的には社会全体として幸福感が最大化するのだ。
しかし、自由な市場でなければ、このような経済取引に制限が課せられるので、社会全体として幸福感が最大化するところまで経済取引が行われず、中途半端な改善しか行われなくなってしまうのだ。だから、社会全体としての幸福を最大化するためには、自由な市場が必要だという結論になる。


この議論では、社会の中での貧富の差を肯定して、その貧富の差がどの程度のレベルの差なのかは問うていない。この貧富の差の問題を「分配」の問題といい、厚生経済学は、この「分配」つまり貧富の差の問題を、うまく記述できなくて苦しんでいるのだが、すくなくとも、自由な市場が貧富の差を拡大するという結論は導かれていない。


市場経済化と貧富の差(分配の問題)について触れるのならば、上で述べたような厚生経済学の基礎を理解した上で議論してほしいと思う。